ルイ・アームストロングから、ウイントン・マルサリスを経て、テレンス・ブランチャード、さらにはニコラス・ペイトンに至るまで、綿々と受け継がれてきたニューオリンズ・ジャズの血統を未来に繋ぐ若干25歳のニュー・スター、Christian Scott ( クリスチャン・スコット )の、3作目にあたる最新弾 『 Live at Newport 』 。2006年のメジャー・デビュー作 『Rewind That 』 がいきなりグラミーの 『 Best Contemporary Jazz Album 』 に選ばれると、プリンスからのオファーで共演したり、ジョージ・クルーニーの映画 『 Leatherheads 』 に出演したり、更には雑誌にモデルで登場したり、・・・と、まだデビューして2年しかたたないのに、すでにジャズの枠を超えて幅広い活動を行っているクリスチャンだが、やや話題先行で本当に凄いんだろうかと懐疑的な見方をされているジャズ・ファンも多いのではないか。
さて、今回の最新作は2008年夏に開催された “ Newport Jazz Festival ” に出演した際のライブ音源だ。CD+DVD の2枚組で、DVDには7曲のライブ映像とドキュメンタリー映像が収められている。これだけのボリュームで、たとえばHMVのマルチバイで買えば2,356円! というう安さに胸のときめきを押さえられないのは、決して私だけではないはず。
最近の若手、特にNYを中心に活動しているジャズ・ミュージシャンは、何とかしてカッコよくジャズからアウトしようと試行錯誤しているが、聴き手に幅広くアピールできる新しい音世界を提示することは難しいようだ。一歩間違えば、悲劇的なセールスをもって、二度と舞台に立つことができないという状況もあり得るわけだ。そんな中、バークリーを卒業したばかりの25歳の青年が、確固たる自己の異世界的音空間を創造し、更にはマスメディアも取り込み、売れるためのスキームをすでに構築しているという事実は、誠に驚くべきことではないか。
そう云ってクリスチャンを持ち上げたものの、正直なところ前作 『 Anthem 』 は、それほど好きにはなれなかった。「 アコースティックと4ビートこそがジャズの正道なり!」 とは思っていないが、前作はあまりにもジャズの響からは乖離しすぎていて、興醒めしたのも事実だ。特に、スネアのハイピッチなチューニングと、シンセベースをシミュレートしたかのようなウッドベースの音色、それから随所に挿入されている電子音による装飾などは気になって仕方なかった。聴きすぎると聴覚の変調を来しかねないという不安もあった。
しかも、“ ニューオーリンズを襲ったカトリーナ・ハリケーン被災に対して政府がとった対応への怒り ”をテーマにしているメッセージ・ソング集!というから、始末が悪い。デビュー作『 Rewind That 』が勢いよくブリブリ吹きまくった傑作だっただけに、第二作『 Anthem 』の出来が残念で仕方なかった。
と云う訳で、本題に移るとしよう。本作はライブ録音という設定事情もあり、前作に比べたらだいぶデジタル・テクノロジーの介入は少なくなっている。唯一のエレクトリックがMatt Stevens ( マット・スティーヴンス )のギターなのだが、なにしろクリスチャンがデビュー前から全幅の信頼を寄せているギタリストだけに、アルバム全体のサウンドスケープを染め上げるだけの存在感を持っている。メンバーはサックスの Walter Smith III ( ウォルター・スミス三世 )とギターのマット・スティーヴンス、ピアノの Aaron Parks ( アーロン・パークス ) は残留し、他のメンバーは入れ替わっている。基本的にはギターを加えたクインテットである。ちなみに2009年1月に来日( Blue Note Tokyo )するが、その際もサックス抜きのクインテット編成らしい。
全8曲で、そのうち6曲がクリスチャンのオリジナル。他の2曲がマットのオリジナルである。既存の2枚の作品から3曲だけ再演しているが、他は新曲のようだ。こうして電気仕掛けを取っ払った素の状態で聴いてみると、意外に聴きやすい曲が多いので驚く。クリスチャンの演奏力は恐ろしいほどに確かで、非の打ちどころがない。M-3 ≪ Isaddra ≫ でのバラード・プレイなどで聴かれるブレストーンなどは、文字通り溜息が出そうなくらい美しい。何度も言うようだが、25歳にしてここまで吹けるのか!と、驚くばかりだ。デビュー前に、相当のストイックな自己練磨があったのであろうことは、容易に想像できる。やっぱりタダ者ではなさそうだ。できることなら、フックなしのストレートアヘッドなバンドで思い切り吹き鳴らすところを観てみたいものだ。
Christian Scott / Live at Newport 2008 Concord UCCO-9200
Christian Scott (tp)
Walter Smith III (ts)
Paron Parks (p)
Matt Stevens (g)
Joe Sanders (b)
Jamire Williams (ds)
Isadora - Christian Scott
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(記事編集) http://jazzlab.blog67.fc2.com/blog-entry-163.html
2008/12/25 | Comment (2) | Trackback (1) | HOME | ↑ ページ先頭へ ↑ |DVDも付いていてこの値段は安いってことで買ったのですが、サウンドがなんか肌に合わなくて、何度も繰り返して聴くという気にはなれませんでした。
次回作もこういう感じなのかどうか。
出来れば普通に4ビートをやっているやつも聴いてみたいものです。
naryさん、こんばんわ。
先ほど栃木から帰ってきました。
栃木とはいっても日光なので、naryさんのお住まいよりはまだマシですが、めちゃくちゃ寒かったです。逃げるように帰ってきました。
あんな寒いところで子供時代を過ごしたのが
信じられません。
ということで、クリスチャン・スjコットですが、
naryさんが肌に合わないというのは、よ~くわかります。僕も始めは気持ち悪かったですもの。
naryさんは第二作目の『 Anthem 』を聴いていない
ようですが、この最新作が肌に合わなければ、絶対
『 Anthem 』もダメだと思いますよ。
ニコラス・ペイトンの『 Into The Blue 』もそうでしたが、なんだかカッコつけすぎなんですよね。
クリスチャン・スコットも今後、どの方向に進むんでしょうかね。ちょっと不安。でも巧いです。
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Christian Scott(Tp) Walter Smith ?(Ts)2,4,5,8 Matt Stevens(G) Arron Parks(P,Rhodes,Syn) Joe Sanders(B) Jamire Williams(Ds) Rec. August,9,2008,JVC Jazz Festival (Concord Jazz CJA30853) クリスチャン・スコットのデビュー・アルバムの前々作「Christian Scott...
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