ハード・バップ大学 アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズの天才養成講座

2009年06月16日 16:41

art blakey hard bop academy
ハード・バップ大学 アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズの天才養成講座 (P‐Vine BOOKs)
ART BLAKEY & THE JAZZ MESSENGERS HARD BOP ACADEMY
Alan Goldsher 著 川嶋文丸 訳

音楽とスポーツを専門とするジャーナリストであり、自らもベーシストとして演奏活動を行う著者が、アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズを去来した数多くのミュージシャンに取材し、そこから得た逸話をもとに、著者自身の簡潔・明瞭な分析を盛り込みながら巧みに物語を進めていくドキュメンタリー作品である。

ほとんどのこの手のミュージシャン・ドキュメンタリー作品が、そのリーダーや主要参加ミュージシャンだけに焦点をあてて書かれているのに対して、本書ではいままで語られることがほとんどなかったジャズ・メッセンジャーズ出身のミュージシャンについても言及うしている点が実にユニークだ。

リー・モーガン、フレディー・ハバード、ドナルド・バードらについてのエピソードが語られるその一方で、ヴァレリー・ポノマレフ ! 、ブライアン・リンチ ! 、果てはフィリップ・ハーパー !! まで網羅されている。ジャズ・メッセンジャーズでは終始脇役の地位に甘んじているベーシストのレジー・ワークマン、チャールズ・ファンブロー、ロニー・プラキシコらにもスポットライトを当てている点も見逃せない。

フレディー・ハバードが語る、出しゃばり過ぎてブレイキーに頭を叩かれた話、ブランフォード・マルサリスが語る、ソロの最中にチャールズ・ファンブローに弓でお尻を突つかれる話、ブレイキーが語る、キース・ジャレットがいつも、自分のレベルに達しないからという理由でバンドのメンバーを首にしてくれと頼んでくる話・・・・など、どのエピソードも内幕的で面白く、そして胸が熱くなるものばかりだ。

アート・ブレイキーは周囲のミュージシャンから慕われ、多くの若手ミュージシャンがジャズ・メッセンジャーズのメンバーになることを夢見ていた。本書に登場するミュージシャンは口を揃えてブレイキーに対する尊敬と感謝の念を述べている。しかし、ブレイキーとサイドメンとの交流の根底に流れるものは愛なんだと思う一方で、本当にブレイキーは彼ら愛していたのだろうか? という疑問も本書を読み進めていくうちに湧いてくる。会社組織が生き残っていくために、能力に陰りの見えてきた社員をリストラし、常に新しい有能な社員を新規雇用していく、といったシステムがこのアート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズにも適応されているように思えてならない。 JM は ≪ Hard Bop Academy ≫ ではなくむしろ ≪Hard Bop Company ≫ ではないかと。


JM のサイドメン達は例外もあるがほとんどが2年から3年のうちに解雇される。自ら脱退していくも者もいるが、それにしたって解雇される前に自分で辞表を書いてしまおうという考えで辞めていくのだ。その解雇の仕方がちょっと厳しい。86年から89年の4年近く在籍していたピアニストのベニー・グリーンは次のように語っている。

自分から辞めなければ、クビにされるのは当然だった。ぼくは現実から目をそらしていた。アートはまるで吸血鬼だった。若くて新しい血を糧にして生きていた。ぼくが愚かだったのは、アートがぼくにクビを言い渡すなら、そのとき、きっと心温まる会話を交わせるだろうと思い込んでいたことだ。バンドに加入させてくれ、ぼくを教えてくれ、成長させてくれてありがとうと、面と向かってアートに言う場面があるだろうと思っていた。でもそれはなかった。現実には、ヨーロッパのロード・マネジャーがツアーが始まる一週間前に電話してきて、『 イギリスのツアーには、ジェフリー・ザーキーが参加することになった 』 と通知されただけで終わった。ぼくにとっては、むごい仕打ちだった。( 298 頁 )


あなたの会社にもいないだろうか。それほど能力があるわけでもないのに組織をコーディネイト、マネージメントする能力には秀でているために ( あるいは “ だけで ” )  出世していく人間。ぼくはブレイキーにそんな人間像を重ね合わせて見てしまう。

マイルス・デイヴィスに関する著書は数多くあれど、意外にアート・ブレイキーに関する著書は少ない。と云うか、ぼくの手許にはジャズ批評 Np.65 『 特集 アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ』 ( 1989年 ジャズ批評社 ) しかない。JM の大ファンのぼくとしては、それはそれで重宝しているのだが、なにしろメジャー・ミュージシャンがメインであるため漏れてしまっているミュージシャンが大勢いる。本書はその空白を補ってくれる著書としてジャズ批評とペアで末永く世話になることであろう。




中年音楽狂さんの本書に関する記事はこちら
2009-6-22 相当面白い 「 ハードバップ大学 」


コメント

  1. ひまわり | URL | -

    Re: ハード・バップ大学 アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズの天才養成講座

     なるほど、アート・ブレーキは、そういう人なのですね。
    でも、いきなり解雇は悲しいですね。
    せめて、本人から一言あるのが、人としての道のように感じますが、音楽の世界では、カリスマ性と、演奏でうならせればお客さんは付いてくるのかもしれません。
    良い作品を生み出すために、アルバムごとにメンバーが変わることは、当たり前ですが、使われなくなった人もいるってことですし、
    お客さんも、どんどん新しくて、演奏の優れた人に目がいくので、厳しい世界ですね。
     チケットが売れなければ、公演の依頼さえ来なくなりますから、、、常に腕を磨いていないと、明日がないわけですね。
     
     先日RnRのライブをコットンクラブに観に行きましたが、久しぶりに、大満足でした。
    演奏も、とっても素晴らしくて、必ず、次回のライブも、来なくっちゃ!と思って帰りました。
    このメンバーは、たぶん日頃から仲良しだと思いました。
    西海岸のミュージシャンは仲が良い感じがします。

     コットンクラブは初めてでしたが、お店の方も感じ良かったです。


  2. criss to ひまわりさん | URL | -

    Re: ハード・バップ大学 アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズの天才養成講座

    僕はジャズ・メッセンジャーズは好きだけど、正直、アート・ブレイキーのファンではないんです。

    ブレイキーの最大の弱点は曲が書けないということです。今だったら絶対メジャーになれませんが、昔はそれでもやっていけたんですね。その代り、メンバーには「曲書け!」ってうるさかったらしいです。メンバーが書いた曲をちゃっかり自分のレパートリーにしちゃうし。

    若手のミュージシャンもそのあたりは承知していたようで、でも、ブレイキーの名声は確立されているから、乗るなら大きな船、というわけでメンバーになっちゃううんですね。

    お互い、利用し合っているわけで、持ちつ持たれるの世界なんですけどね。

    RnR をコットンクラブでご覧になられたんですか。
    それはさぞ素敵な夜をすごされたことでしょう。コットンクラブにはぴったりのバンドですね。

    僕も昔はリチャード・エリオットはよく聴きましたよ。90年前後ぐらいだったかな。まだバブリーな頃。エリオットがまだ髪が長かった頃。『What's Inside 』とかかけながら、よくドライブしてました。あのころはたくさんのフュージョン・サックス・プレイヤーがデビューしましたが、今はほとんど姿を消しました。エリオットはその中の生き残りですね。大したもんです。


    というわけで、これから外来です。
    では、また。

  3. 中年音楽狂 | URL | uMKEDMHo

    Re: ハード・バップ大学 アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズの天才養成講座

    crissさん,こんにちは。現在ロンドンに出張中です。今,出勤前のひと時です。

    この本をcrissさんのブログで拝見して,私もすかさず買ってしまいました。出張帰りの新幹線には最高の読み物でした。ご紹介ありがとうございます。

    記事にも書きましたが,これを読んでいて,猛烈にBobby Watsonが聞きたくなってしまい,中古でCDをゲットした私でした。"Heat Wave"はcrissさんも記事を書かれていましたよね。そのうち,私も記事にしたいと思います。

    TBさせて頂きます。

  4. criss to 中年音楽狂さん | URL | -

    Re: ハード・バップ大学 アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズの天才養成講座

    相変わらず世界中を飛び回っていらっしゃるようで、お体には十分お気をつけください。
    私の患者様も海外出張者が数多くいらして、皆さん次に帰ってくるのは半年後だから半年分の処方をくれ、なんていう方が大勢います。
    皆さん、心臓病や高血圧や痛風(笑)なんかで苦労しながらもタフに世界中で活躍されています。

    僕なんか一生、この東京で地味に臨床しているんだろうな〜。でも、実は高所恐怖症(と言いつつ高層マンションに住んでいますが)なので、飛行機が大の苦手ですので、医者でよかったと思っています。

    ということで、ボビー・ワトソン。
    中年音楽狂さんも好きですか。
    僕もまあまあ好きです。なんとなく日本では評価が低いように思いますが。
    Blue Note の諸作品がちょっと詰まんないのが多いんですよね。でもウマいですよね。

    TBだめみたいです。
    とりあえず本文の中にリンク張っていきました。
    こちらからもTBさせていただきます。

    では、がんばってください。

  5. 中年音楽狂 | URL | uMKEDMHo

    Re: ハード・バップ大学 アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズの天才養成講座

    crissさん,ロンドン時間なのでこんばんは。crissさんのTBは問題なく届いていますが,今度は私のがダメなんですね。不思議な事象です。文中リンク張っていただきましたが,取り敢えずリトライさせて頂きます。

    Bobby Watsonですが,彼の音楽はマイナー・レーベルでなくてはならないというのが私の思うところです。東京リーダーズ・ビッグバンドとか,永井隆雄とやったSomedayでのライブとか。いずれにしても,これだけ燃えさせてくれるアルトはそうはいません。日本に帰ったら浴びるように聞いてしまおうかななんて思っています。

  6. criss to 中年音楽狂 さん | URL | -

    Re: ハード・バップ大学 アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズの天才養成講座

    >crissさんのTBは問題なく届いていますが,今度は私のがダメなんですね。不思議な事象です。

    ほんと、わけわかりません。できたりできなかったり。なんとかしてほしいですね。

    リトライもだめだったみたいですが、めげずに次のときもトライしてみてください。

    Bobby Watsonが東京リーダーズ・ビッグバンドとやったのは以前に拙ブログでも取り上げてます。

    http://jazzlab.blog67.fc2.com/blog-entry-321.html

    もしお暇なら覗いてみてください。

  7. とおる。 | URL | -

    Re: ハード・バップ大学 アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズの天才養成講座

    はじめまして。とおる。と申します。

    「アートブレイキー」でググッたところ、ヒットしてやってきました。私もアートブレイキーが好き(特に後期)で良く聴いています。

    bobby watson私も好きですね。
    自分もサックスをやるんですが、テナーをやるつもりがアルトをやるように薦められ、以来アルトを聴くようになりました。
    その中でもbobby watsonはテクニックだけでなく、曲もかなり良いものが多く飽きがないです。
    特に「Time will tell」なんて最高だと思います。なんだか物悲しいような、ストーリー性が強くあるようなジャズらしくない不思議な感じとでも言うんでしょうか、最初はそう思って聴いていましたが聴き込むうちにコレはすごいなと。

    こちらの本にはドナルドハリソンのインタビューなんかもあって、面白そうでしたがまた買っていません。買おうかな。。。

  8. criss to とおるさん | URL | -

    Re: ハード・バップ大学 アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズの天才養成講座

    はじめまして、Criss です。
    ハンドルネームの criss はアルトのsonny criss からとってます。
    どうかよろしく。

    >「アートブレイキー」でググッたところ、ヒットしてやってきました。

    ホントですね。僕も今ググったら、1ページにインデックスされていますね。ちょっとびっくりです。

    >特に「Time will tell」なんて最高だと思います。

    いい曲ですよね。僕も大好きです。いい曲だからワトソンがJMを脱退してからもブレイキーはこの曲をレパートリーにちゃっかりしちゃいましたよね。

    僕もJMが好きで今までにも何回か書いてます。特にショーターとリー・モーガン在籍期が好きです。さらにその中でも61年の2月~5月が最高です。

    そのあたりのことは
    http://jazzlab.blog67.fc2.com/blog-entry-333.html
    をみてください。

    また、お暇なら来てくださいね。
    では、また。

  9. ひまわり | URL | -

    Re: ハード・バップ大学 アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズの天才養成講座

     少し早い夏休みを迎えています。
    ハード・バッブの本を探しに行ったら、「ビル・エヴァンスについてのいくつかの事情(中山康樹 著)」、「指先から感じるドビュッシー(青柳いづみこ先生)」の本にも出会い、感激です!

     ハード・バッブの本は、音楽狂さんも、コメントされてみえますが、登場人物が分かる方には、大変興味あるものでしょうね。
    私のようなビギナーでさえ、人物と曲、当時の様子に関心がわきますから、、、、
    音楽と、その時代背景、人物像、人間関係は切っても切り離せないものですし、知れば知るほど、造形が深くなります。
    そのような事を学び聴いたり、自分が演奏する時、聴く時、感情の引き出しの中に、そっとしまっておくことが好きです。
    言葉で伝えられない感情を、目や耳、五感で感じ取る作業が好きです。
     自分に感性がないときは、素通りしていきますし、、、。
     
     話変わりますが、クリスさんは、もうフュージョンは聴かれないですか?
    私はAlexander Zonjicのdoin' the D、ニューアルバムをあきもせず毎日聴いています。
    デトロイトのラジオ局の司会者だと思っていたら、、、私、フルートの演奏がこんなに可能性があることを知らなかったので、びっくりしています。
     GMのニュースで何度も目にしたデトロイトの街の夜景がオシャレです。
    デトロイトの街を大切に思ってみえるのでしょう、、、
    夜景と、フルートが、とてもきれい!
     
     

  10. criss to ひまわりさん | URL | -

    Re: ハード・バップ大学 アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズの天才養成講座

    今晩わ。

    先週の土曜日にぎっくり腰になってしまい、PCの前に座ることすらできずにいます。今も痛みで冷や汗をかきながら、少しの間、がんばって返信くらいはせめて書いてておこうとがんばっています。ふ〜。

    >音楽と、その時代背景、人物像、人間関係は切っても切り離せないものですし、知れば知るほど、造形が深くなります。

    本当はミュージシャンの人間像や時代背景などは関係なくその音楽だけに耳を傾け、理解することが大切なのかなって思おう時もありますが、好きになればなるほど、その人のことが知りたくなりますよね。

    >私はAlexander Zonjicのdoin' the D、ニューアルバムをあきもせず毎日聴いています。

    CDは持ってませんが、仕事をしながらよくBGMで聴いているネットラジオ、smoothjazz.com
    http://www.smoothjazz.com/
    で時々流れるので知っていますよ。深夜に一人部屋にこもって聴いていると気持ちイイですよね、この手の音楽は。

    スムースジャズに関してはこのネットラジオで気に入ったものがあるとCDを買うこともありますが、最近はほとんどなくなりました。やはりスムースジャズは消費される音楽、という印象があり、CDまでは手がでないんですよね。

    フルートだと昔はヒューバード・ローズっていう人がいましたが、ひまわりさんはご存じないですよね。それからもうちょっと新しいところではデイヴ・ヴァレンティンという人も好きでした。夏が似合うラテン系のフルート奏者ですが。

    ご存じだとは思いますが、smoothjazz.com でほぼすべてのスムースジャズの新譜はかかりますよ。128kbps で音質もいいし、お勧めです。


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